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そのときの自分たちに合うように変えられる。“今”を大事にする家

店舗付きの中古物件を購入し、セルフリノベーションをして暮らしている近重さん一家。その選択や暮らしには、自分たちらしく生きていくための知恵がつまっていました。

overview

居住者構成 3人 | 以前の住まい 生駒市 | 居住開始 2015年 | 鉄筋コンクリート造・テラスハウス(店舗付きの連棟住宅) | 敷地面積 181m² | 延床面積 119m² | 建築 1976年

profile

ともに移動販売の仕事をしている二人。近重孝司(ちかしげ・たかし)さんはカフェ『Espresso Stand Onto(エスプレッソ・スタンド・オント)』を、智子(さとこ)さんは『タコス屋サリー』と『Truck wedding』を営んでいます。智子さんの愛称はサリーさん。

店舗も備え、仕事と育児が両立しやすい家

生駒市あすか野は、1970年代に入居が始まったニュータウン。市内では鹿ノ台や白庭台に続く大規模な住宅地で、約4,600人が住んでいます(2021年1月時点)。矢田丘陵北部に位置する緑豊かで閑静なエリアで、緑道・広場も整備されています。

その中心部の商業エリアに、店舗付きの連棟住宅があります。1階は店舗が連なっていて、その2階に住むこともできます。南側の道路に面しているのが、1階の店舗の正面入口と2階のバルコニー。北側も道路に面していて、駐車場と住宅の玄関があります。ここを住まい兼店舗にしたのが、近重さん一家です。

妻のサリーさんは、生駒駅近くのカフェで店長をしていました。しかし、27歳のとき近鉄けいはんな線が開通して人の流れが大きく変わり、お客が減少。「お店が移動できたらいいのにな……」と考えたことが転機になり、28歳で独立してキッチンカー『タコス屋サリー』を始めたのです。

その後、野外ウェディングのケータリングをプロデュースする『Truck wedding』も始め、「お客さんと打ち合わせをしたり、料理をしたり、小物や道具を置いたりする拠点が欲しい」と考えるように。2012年から物件探しを始めました。

当時交際中だった、夫の孝司さんも移動販売車のカフェを営んでいて、将来同居することを見据えていました。二人の希望エリアは生駒市か奈良市だったため、生駒市に住んでいたサリーさんが物件を探すことに。

条件は四つありました。「一つ目は、住まい兼、厨房をもつ店舗であること。二つ目は、二人の移動販売車が3台もあるので、広い駐車場があること。三つ目は、食材や洗い物を持ったままでも移動販売車と厨房をスムーズに出入りできる造りであること」。

四つ目は、プライベートのためのものでした。「将来的に、自営業をしながら育児をするってどうしたらいいんやろう、とずっと考えていたんです。実家(の両親)に頼りきらなあかんの?とか。でも、自分も育児に関わりたい。仕事と育児の両立がしやすい家もポイントでした」。また、二人ともリノベーションに関心があったことから、中古物件を探しました。

広い土地に惹かれて生駒市高山地区が気になり、古民家を2軒ほど内見しましたが、店舗の運営は難しく、「ここだ」と思える家には出会えませんでした。

「他にも気になる古民家があって、移動販売車のリフォームでお世話になった大工の奥窪猛さんにそこを見てもらったら、『家が歪んでいる。こういう家に住むのはあかん』と教えてもらったんです。なかなか見つからず、2年くらい探しました」

職人の力を借りて、夫婦でリノベーション

不動産サイトで今の住まいを見つけたのは2014年のことでした。「条件を満たしていたうえ、私が通っていた保育園のすぐ近くで『今すぐ見に行きたい!』と思ったんです」。

内見すると、1階は元クリーニング店の雰囲気を残したままでした。2階は6帖の和室が2部屋と約11帖のLDKという団地のような間取りでしたが、公団住宅のリノベーションの様子をネットでよくチェックしていたサリーさんは「ここならいける!」と思ったそう。

「リノベーションするイメージが膨らんだんです。商業エリアなので作業をする音が多少出ても大丈夫であろう点、鉄筋コンクリート造で頑丈である点なども気に入りました」

すぐ孝司さんに相談すると、賛成してくれました。孝司さんはこう振り返ります。「僕たちは二人とも、昭和の雰囲気が漂う公団住宅に対して『逆にかわいい』と思うタイプなんです。だから、古めかしさに抵抗はなく『おもしろい物件だね!』という印象でした」。

購入後、2015年にサリーさんが先に入居。仕事ができるよう、大工の奥窪さんに依頼してまず1階の厨房環境を整え、既製品のステンレスシンクを入れ、営業許可を取りました。

「駐車場からの動線として厨房の場所だけは事前に決めていましたが、3部屋に分かれていた2階は大工の奥窪さんに壁を抜いてもらい、スケルトン(建物の壁・柱・天井のみの状態)にしてから考えました。できないことは部分的にプロへ依頼して、できるだけ自分たちで作業することにしたんです」とサリーさん。

孝司さんは、デザイン事務所に勤務していたので、図面を引くことができます。移動販売を始めるときには、その車内をDIYした経験もありました。一方、サリーさんにとっては初リノベーション。特にやってみたかったのは、壁塗りとタイル貼りでした。

孝司さんはこう話します。「僕は図面を引いてから作業するタイプで、サリーさんは図面なしにすぐつくるタイプ(笑)。サリーさんが『こうできる?』と言ったことを、僕が図面を引いて、進めていきました。プロであればいくつか方法があるんでしょうけど、僕はプロではないから、引き出しがない状態でどうつくるか。でも、あれこれ考えてつくっていくのはおもしろいんです」。

自分たちに家をぴったりと合わせていく

孝司さんが特に力を入れたのは、2階のキッチンのリノベーションでした。

「気を付けたのはシンクの高さです。サリーさんは身長が低いので、一般的な高さでは使いづらい。僕は料理ができないので、サリーさんが使いやすい750mmの高さに設計しました」。照明のレールは大工の奥窪さんに依頼し、コンロや食洗機などはパーツごとにホームセンターや北欧家具メーカーで購入して組み合わせました。

サリーさんは、壁塗り、1階のパーテーション製作、2階の風呂とキッチンのタイル貼りなどを担当。「大工の奥窪さんに石膏ボードを貼ってもらってから、仕事が終わった深夜に壁塗りをやりました。念願のタイルは、安くて色が好みのものをネットで必死に探しましたね」。

タイル貼りは、壁の隅の処理がむずかしく、孝司さんも手伝ったそうです。「タイルを割ってから貼るんですけど、なかなかうまくいかなくて。何枚捨てたか分かりません」と孝司さんは苦笑しますが、サリーさんはその美しい仕上げをとても気に入っているそうです。

また、バルコニーは、ウッドデッキと屋根、窓の製作を大工の奥窪さんに依頼しました。自分たちのイメージ通りになるように、イメージ写真を何枚か見せながら「こんな風にしたい」とデザインを伝えたそう。自分たちに技術がなくても、プロの力を借りて思い通りの住まいをつくっていくことはできるのです。

二人は2018年に結婚し、サリーさんは男の子を出産しました。子どもができたことで、気になるようになった部分にさらに手を加えています。

「シンク下の食器収納部分を子どもがいじるので、開けられないように扉をつけたり、バルコニーは危険がないように壁紙や黒板をつけたり、夜も遊べるように照明をつけたり」。孝司さんは父親の顔をのぞかせます。

サリーさんはリノベーションを経験して、今どう感じているのでしょうか。「一度経験したら『自分でできる!』って思えるから、気になるところがあれば『今度はこうしたらいいやん』って話すようになりました。子どもが成長していくにつれて『じゃあここ変えようか』って。建て売りだったら許されへん部分でしょうね。一緒に成長していく家、というか、そのときに応じて自分たちに合うように変えられるところが、とても気に入っています」。

一緒に成長していく家——。この先も“進化”していくであろう、近重さん一家の今後が楽しみです。

(2021.01.20)

いいサイクルはじめよう、いこまではじめよう

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