食も住まいも、自然素材がいい。生駒で見つけた家づくりの軸
マンション、テラスハウス、戸建。色々な賃貸物件に住んできた小野さん一家。もともと新築志向でしたが、「人が集える広い居間と、自然素材での家づくり」という軸に出会い、築46年の中古物件を購入しました。
overview
居住者構成 5人 | 以前の住まい 栃木県宇都宮市 | 居住開始 2017年 | 木造・2階建て | 敷地面積 155 m² | 延床面積 211m² | 建築 1971年
profile
生駒市生まれの小野恭子(やすこ)さんは、大学進学を機に東京へ。自動車メーカーに勤める弘太郎さんと結婚します。東京、栃木での転勤生活を経て、2017年に一家5人で生駒市へ引っ越しました。
自然素材に包まれた暮らし
生駒市には、江戸時代の区割りが今日まで残るまち並みがあります。萩の台駅から歩くこと10分。すれ違う人とあいさつを交わしたくなる路地と、築50年をゆうに超える家々が続く地区に、小野さん一家は暮らします。
玄関扉を開けると、木のよい香り。この住まいに合わせて職人が腕をふるった吉野ヒノキの階段が迎えてくれました。
玄関左手に広がるのは、21畳の居間。ふすまで仕切ると4部屋に分かれる「田の字型」の間取りは、結婚式や法事が家で行われた江戸時代、人が集うために生まれました。
3人の子どもたちは、2階に自分の部屋があるにも関わらず、居間で多くの時間を過ごします。引っ越し前には「個室がなきゃ絶対イヤ」と口をとがらせていた中学生の長女も、その1人。子どもたちの様子に目をやりながら、恭子さんはキッチンで夕飯の支度を始めました。
話し合ったのは、家族の幸せ
住まいにすっかり馴染んだ一家が、ここに暮らし始めたのはつい2年前。自動車メーカーに勤めていた弘太郎さんが異動するたび、南向きのマンション、お隣さんに気をつかう壁の薄いテラスハウス、大手ハウスメーカーが建てた戸建と、引っ越しを重ねる転勤族でした。
自然素材の家に関心を持ったきっかけは、「食」にありました。2013年に誕生した次男が、食物アレルギーを発症。長男にも花粉症のごく軽度のアレルギーがあることが、わかったのです。
恭子さんは、家族のアレルギー改善のために日々の食材をできるだけ自然由来のものへ見直していきました。食にのめり込むうち、住まいの候補地として、生まれ育った生駒市が浮かんできました。
「高校生のときは、東京に出たくて仕方なかったんですけどね。生駒市が野草などの食材の宝庫であることに気づいたんです」
自然に恵まれた暮らしは、きっと家族を豊かにしてくれる。お盆や正月の帰省を経て確信した恭子さんは、生駒市での家づくりを家族に提案しました。
「単身赴任という選択もありましたが、弘太郎さんが『お金を運ぶ人』になってしまうのだけは避けたかったんです。弘太郎さん自身にも『1人の人として仕事に縛られることなく、自分の選択をしてほしい』と伝えました」
弘太郎さんは20年以上も勤めていた自動車メーカーを退職し、転職先を決めずに生駒市へ向かいました。大阪へのアクセスの良さが、選択をあと押ししたのです。
出会いが、家づくりを変える
引っ越した当初、新築購入を検討していた一家は、萩の台に築50年以上の家が多く残っていることに気づきました。「家の寿命は30年だと思っていたのですが、改修によりその何倍も住み継げると知り、驚きました」。恭子さんは、中古物件の改修という選択肢を前向きに考えます。
続けて「吉野の森見学ツアー」へ参加することに。木の住まいには魅力を感じていましたが、予算から手入れ方法まで、わからないことだらけでした。森でおおらかに育つ100、200年生の吉野スギ・ヒノキにふれ、のちに小野さん一家の住まいの改修を手がける生駒市在住の建築士・岩城由里子さんとの出会いも経て、木の住まいへの憧れを確信に変えていきました。
こうした人との出会いを通じて、自分たちがほんとうに住みたい家のイメージを明確にしていきます。それは「人が集える広い居間があり、自然素材を用いた家」でした。
家が変わる、働き方が変わる
一家は知人の紹介を受け、2年間ほど空き家になっていた住まいを購入します。そして建築士と話し合い、家づくりの予算を抑えるために土壁塗りを自分たちで行うことに決めました。
左官職人に指導を受けたものの、2階建ての家を丸ごと塗り替える作業は想像以上の大仕事。何度も心が折れそうになった一家を手伝ってくれたのは、家づくりを見守っていた近所の方々でした。
色々な人の手で塗られた土壁は、よく見ると1枚1枚の模様が異なることに気づきます。
「おかげさまで、壁にも思い出が刻まれました」という弘太郎さんこそが、家づくりを通じて一番変化しました。内見時は「薄暗いし、汚れているし、とてもじゃないけれどここには住めない」とさえ話していましたが、改修中のある日、近所の民家の解体現場から建具を譲り受けてきたのです。
「土壁を塗りながら、良質な自然素材と、職人さんの技量に魅せられたんです。家は残せなくとも、せめて価値ある建具を我が家に受け継ぎたいと思いました」
弘太郎さんは、今の暮らしと重なるキャリアチェンジをしました。現在は、適切に管理した森林の木材を流通させることで、森林を守る認証制度の審査員として働いています。
また恭子さんは自ら山で食材を採るなど、野草や薬草への関心を一層高めました。そして生徒のみなさんと対面できるように設計されたアイランド型のキッチンで、薬膳料理教室を開いています。
家づくりを機に家族が話し合い、あたらしい幸せを手にした小野さん一家。家族一人ひとりが、より自然体の生き方を見つけつつありました。
(2019.9.27)
生駒市内にある戸建の中古住宅を購入し、省エネ・耐震・バリアフリーいずれかの工事を行い、新たに住む所有者に対して30万円の奨励金を交付しています。
生駒市 既存住宅流通等促進奨励金
奈良県産材の利用拡大を図るため、奈良県地域認証材又は奈良県産材を使用した住宅(新築、増築、改築又はリフォーム)に対して補助金を交付しています。
奈良県 地域認証材使用住宅助成事業
吉野林業の中心地である奈良県川上村を中心に、製材所、吉野材で建てられた建物などを見学します。数百年にわたり受け継がれてきた、山からまちへのつながりを体験できるツアーです。
吉野の森見学ツアー