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なんでもなおすおじさんと、リビングがある公園

生駒市は、地域の人が歩いて集える自治会の集会所や公園などの地域拠点を活用し、新しい地域のつながりをつくる「複合型コミュニティ(まちのえき)」づくりを進めています。いったいどんな活動やつながりが生まれているのでしょうか。エッセイストのしまだあやさんが、ひかりが丘を訪れました。

机、椅子、棚には駄菓子、冷蔵庫にジュース。
私は今、コーヒーを飲みながら、この記事を書いています。

「お芋さんできたんだけど、どう?」とおばさん。
「あとで大根も炊くから、食べてって」とおじさん。

ここだけ読むと、「親戚んちにでも来てるのかな」と思われるかもしれないけれど、私は今、公園の中にいます。

今日はここ、生駒市の「ひかりが丘」というまちを訪れて起きたことや、出会った人たちのことを、書いていこうと思います。

ちなみに、生駒市を訪れてエッセイを書くというのは、去年もさせてもらってて。ありがたいことに、今年もこうして書いてます。

で、そういうときは、ある程度は調べたり聞き込みをするんだけど、ひかりが丘の公園には「なんでもなおすおじさん」がいるという、魅力的な情報を入手しまして。

どんな人だろ、会えるかな。楽しみだな。

百歳体操とコーヒーサロン

時刻は朝9時。
自治会長さんが案内してくださるということで、公園の横にある「ひかりが丘集会所」で待ち合わせをした。

「どうも、ようこそいらっしゃい」
「こんにちは。すごい賑わってますね」
「ちょうど中で、『いきいき百歳体操』ってのをしてるんです」

見渡すと、ざっと50人くらい。もしかするとこの中に、「なんでもなおすおじさん」がいるかもしれない。

「私も交じっていいですか?」
「ああ、もちろんいいですよ」

1時間ほどの体操が終わると、みなさん一斉に、椅子や机を動かしはじめる。5分足らずで、喫茶店みたいなレイアウトになった。

「あなた、スタンプカードは持ってる?」
ひとりのおばさんが私に声をかける。スタンプカード、持ってない。

「百歳体操にはスタンプカードがあってね。貯まると、これからはじまる『コーヒーサロン』のチケットがもらえるの。ない人は100円で飲めるわよ」

コーヒー、いただくことにした。スタンプもひとつ、押してもらった。

周りを見渡すと、真剣な表情で語らうテーブルもあるし、ずっと笑い声が聞こえるテーブルもある。年齢は違うけど、高校の昼休みの教室みたいな空気感。確かにこれは、百歳まで元気でいられそう。

11時。コーヒーサロンも終わりに近づいた頃、なぜか野菜が配られる。嬉しい。

「たくさん採れたから、おすそわけ。 この辺は畑してる人が多くて、たまに野菜市もしてるから、また覗きにおいで。はい、これはハヤトウリ。食べたことある? 」

ハヤトウリのレシピをおばさんたちに教えてもらっていると、「じゃあ次、公園いきましょうか」と自治会長さん。公園……そうだそうだ。なんでもなおすおじさん、探しに来たんだった。

なんでもなおすおじさん、現る

公園に来た。ふつうの公園だ……と思ったら、一角だけちょっと様子が違う。家にあるような椅子、机、棚がある。冷蔵庫まである。なんかちょっと、リビングっぽい。
しかも、おじさんが2人、テーブルにテープを貼っている。なんでもなおすおじさんに違いない。

自治会長さんに聞いてみる。

「あのお二人は、何をされてるんですか?」
「この公園で毎週、不用品回収をしててね。ひかりが丘に住んでる人たちが、要らなくなったものを持ってくるんです。で、その中から使えそうなものは綺麗にして、公園の備品にしているんですよ」

「あっちのテントの下は、不用品交換コーナー。交換じゃなくても、欲しいものがあれば持っていっていいですよ」
「えっ。ちょっと見ていいですか」
「はい、もちろん」

鍋、フライパン、炊飯器。レトロなビールグラス、カレーポット、食器もいいのがいっぱい。え、農協のトランプがある。農協ってトランプ出してるんや。面白いから、もらおっと。

いただいたものを並べて遊んでいると、工具を持った別のおじさんが横切った。……そうだそうだ。なんでもなおすおじさん、探すんだった。

ついていくと、テーブルにテープを貼っていた人たちとは、また別のおじさんたちと合流し、ひとつのラジカセに集まっていた。「なんでもなおすおじさん候補」が増えていく。

「これ電源きてるー?」集会所に向かって声をかけるおじさん。
「はいはい持ってきましたよ」おお。また別のおじさんが、ドラムリールを持って歩いてくる。「なんでもなおすおじさん候補」、どんどん増えていく。

おじさん、ラジカセの電源コードを挿す。ボタンをぱちぱち押す。
「鳴った!なおった!」
「なおったなおった!」

公園にやさしく響き渡るAMラジオ。懐かしの歌謡曲。
「ええな。しばらくかけとこ」
おじさんたちは、コーヒー片手に休憩しはじめた。よし、今だ。聞いてみよう。

「あの、『なんでもなおすおじさん』たち、ですか?」
「なんでもなおすおじさん?? 誰やろ(笑)」
「……って呼ばれたりしないですか…?」
「いやあ、俺らとちゃうなあ」

すると、自治会長さんが来て「コジマさんのことやわ」と言う。
「ああ〜、コジマさんか! あっちの階段降りてみ。いはるわ」

「はい、できました」とコジマさんらしきおじさん。
「わあ! もう回収してもらおかなと思てたのに、すごいわ!」とお姉さん。
「もうないか?」
「えー…家に古い中華包丁があるけど…」
「持っといでや」
「ええの? 嬉し!」

「なんでもなおすおじさん」ことコジマさんは、この公園に集まってくる不用品を、また使えるように直すおじさんだった。他の人も直すけれど、「コジマさんには敵わん」だそうで。

それでも、すごいなあ。みなさんお仕事がものづくりとか、そういう関係なのかな。
「ちゃうちゃう、みんな趣味。ものを大事にして、また使えるものは使って……っていう気持ちがある人同士、こうやって集まるんが楽しい。それだけやね」

12時。不用品回収カゴの中身が増えてきた。すると、おじさんたちが見に来て「これはどうや」「やってみるか」と作戦会議。いけそうなものは、公園内に置かれたプレハブの中から工具を持ってきて、直す。磨く。

ちなみに、直しても使えなかったものや金属くずなどは、カゴにそのまま入れておく。すると、最終的には事業者さんが回収に来てくれる、という仕組み。私、間一髪のところで、くま3匹を救い出しました。お部屋に飾ろっと。

大根炊いてたはずなのに

13時。なんでもなおすおじさんにも会えたし、ひかりが丘のエッセイ、早速書いていこうかな。

いい天気で居心地もいいので、自治会長さんに「このまま公園で執筆してもいいですか」と聞いてみる。もちろん!とのことで、テーブルを借りてパソコンを開く。

「仕事すんの? えらいなあ」とおじさん。
「ワイファイあるで。ワイファイ。集会所から飛んでるねん」
「電気も来てるで、使いや」

なんという環境のよさ。コワーキングスペース、いや、コウエンワーキングスペース。

「明るかったら画面見にくいやろ、パラソルさしたろ」
「コーヒーいるか? お茶もあるで」
わあ、ありがとうございます。

「お芋さんもできたんだけど、どう? 食べない?」
えっ、それは待遇がよすぎる……! そこまでは申し訳ないです。

「ちゃうちゃう。いつもこの時間になったらしてることやねん」
「火曜と第4土曜、もう3年になるよね」
「あとで大根も炊くから、よかったら食べてって」

じゃあ、ぜひぜひ。お代は…

「いらんいらん。今朝ハヤトウリもらったでしょ? ああしてみんなで分けるんを、適当に集まって食べてるだけやねん」
「ということで、はい! まずはお芋さん」
「大根も炊けたら呼ぶから! お仕事頑張ってねー!」

……なんか、不思議な公園やなあ。もちろん褒め言葉です。

1時間後。

「炊けたよ! おいでー!」

おたまで鍋からすくわれて、お皿に盛られる大根、大根。それから厚揚げ、ごぼ天……えっ。いや、おでんになってますけど!!!!!(笑)

「大根だけなん寂しくなってきてな、家からちょっとずつ持ってきちゃった」
「どや、はかどってるか。食べてる間、おっちゃんが読んで、チェックしたろ」

……ここ、親戚んちなのかもしれない。

サイダーと小学生とカラオケ

15時半になった。
私、半日も公園にいる。すごいなあ、子どもの頃だってこんなにいなかったよ。

と、ここで、東の方向より公園へ爆走してくる小学生を3名確認。そうか、学校が終わる時間か。ダウン着てる人もいるのに、「アツい!アツい!」と叫びながら、薄着で猛突進してくる。

「じゅーすくださいじゅーす!!!!」
「じゅーすじゅーすじゅーす!!!!」
彼らは公園内にある冷蔵庫をバッと開ける。中にはサイダーが入っていた。

「これください!!!」
「よく来てくれるのは嬉しいけど、これみんなで飲むやつだからね。みんなにも教えてあげてね?」とおばさん。
「はい!わかってます!」
「うんうん。じゃあどうぞ」
「いよっしゃあーーーー!!!!!」
「ありがとうおばちゃん!!!!!」

小学生たち、お次はおじさんたちが修理したラジカセに興味を持ったもよう。
「これ何の歌? 知らんねんけど」
「スターマインがいいな〜……あ! そのパソコン、Youtube見れる?」
うん、見れるよ。ここはワイファイが繋がっているからな。と、リクエスト曲を再生。

「うわ!スターマインやー!わたし歌える、歌いたい!!」
「次ドライフラワーかけて!」
「ねえ、BTSの歌ある?!」

学校帰りの小学生が、四方八方から集まってきて、カラオケと化していく公園。大人たちも、手拍子しはじめた。
「そうか、みんなこういうのが好きなんかあ。これくらい毎日、子どもたち来てほしいなあ。いやあ、もっと知らなあかんわ。チェーンソーマン、読むかあ」

ひとり、聴き入ってしまうくらい、歌の上手な小学生がいた。なんだろ、初期の椎名林檎みたいな。ハスキーで、シャクリもかっこよくて、とにかく、すごい。
「すげーーー!めっちゃウマい!」
「プロの歌手みたいやんか!!」

照れたのか、滑り台へ爆走していく彼。でも数分後に戻ってきて、こっそり教えてくれた。
「おれな、いつか自分で歌作って、tiktokとかYoutubeで歌いたいねん」
うんうん、できるよ。今からでも。きっとたくさんファンがつく。
私もフォローする。チャンネル登録、絶対するよ。

・・・

ブランコ、滑り台、砂場にシーソー。ここは、ひかりが丘の中にある、一見なんでもない公園。

けれどそこには、机や椅子、お鍋に冷蔵庫。誰かの家で役目を終えたものたちが、「なんでもなおすおじさん」たちの手によって、みんなのものに生まれ変わる公園。

「お芋さんできたんだけど、どう?」
「大根も炊くから、食べてって」
「おーい、このライトいらんか?」
「ドライフラワー 一緒に歌お!」

親戚んちに来てる気分。ここは、みんなのリビングがある公園。

最後に、自治会長さんにも話を聞いてみた。

「自治会の活動って、どうしても60代以上ばかりになる。それに、ひかりが丘は名前の通り、丘の上にある住宅街。車を走らせないと、コンビニやスーパーがないんだよね。そんな中でも、ここでの暮らしを楽しんでほしい。僕らの世代はもちろん、若い家族や子どもたちにも。だから、こんな風に集まったり、キッチンカー呼んでみたり、ライブをしてみたり……いろいろ試しているところ。」

ちなみに、今日の私のように、外の人がフラッと立ち寄るのも大歓迎とのこと。
もし、生駒に来ることがあって、近くを通ることがあったら。公園や集会所から、笑い声が聞こえたら。ぜひ、顔を出してみてね。

※しまだあやさんが書いた他の「まちのえき(複合型コミュニティづくり)」の記事はこちら
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【ライター情報】
しまだあや
作家・エッセイスト。1987年大阪生まれ。奈良に移住して5年、寝室以外の94%を地元の10〜20代に開放するという暮らし方をしている。雑誌やWebなどでの執筆を中心に、企画、MCなど。代表エッセイに、note「今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く」「7日後に死ぬカニ」他。

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2023.01.24 UP

いいサイクルはじめよう、いこまではじめよう

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