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ごみから作られたホットドッグで、ごみの概念が変わった話

生駒市は、地域の人が歩いて集える自治会の集会所や公園などの地域拠点を活用し、新しい地域のつながりをつくる「複合型コミュニティ(まちのえき)」づくりを進めています。いったいどんな活動やつながりが生まれているのでしょうか。エッセイストのしまだあやさんが、萩の台を訪れました。

ある日、隣町に勤める先輩からお誘いを受けた。

「今週末の日曜日、緑道でカフェをやるので、遊びに来ませんか?」

今まで生きてきた中で、一番優雅なお誘いかもしれない。聞けば、まちのみなさんがコーヒーやホットドッグをふるまってくださるらしい。ホットドッグ大好き。パン屋さんに行ったら、ソーセージが挟まってるやつ必ず買うもんな。「ぜひぜひ」と答えた。

しかし、このホットドッグ、ただのホットドッグじゃなかった。語弊を恐れず先に結論を言うと、私が食べたホットドッグ、なんと「ごみから作られている」のである。

写真だけを見ても、「ん? 極めてふつうのホットドッグじゃない?」となると思う。でもこれは、私のごみの概念を変えたすごいホットドッグ。今日は、そんな話をしたいと思います。

萩の台の緑道カフェへ、200円のスペシャルモーニング

10月のある日。隣町の先輩から誘われて「緑道カフェ」に向かった。場所は、奈良県生駒市の「萩の台」というところ。生駒駅から近鉄生駒線に乗り換えて4駅。子どもたちがのびのび暮らす住宅地。

ここには、住まいは奈良だけど、仕事は大阪という人も多い。そういう人たちのことを「奈良府民」と呼ぶらしい。近鉄電車の難波線・奈良線を愛用する「奈良府民」たちは言う。

「電車が山登ってくあたりから、やっぱ空気がフワッて変わるよな」
「わかる〜!生駒駅のドア空いたときのにおい『帰って来た〜』ってなるもん」
「わかる〜!!!」

かくいう私も、立派な「奈良府民」になって、早4年半。だけど、「萩の台」ははじめて降り立つ場所だった。萩の台は、生駒駅で感じるにおいを、もっとまろやかにしたような空気が漂っていた。

木々に囲まれた道を5分ほど登ると、公園があった。その公園を抜けると、「緑道Cafe」の看板。わー、ここかあ。

覗き込むと、おそろいのチェックの三角巾を身に着けたおばさん達が準備をしてた。この日は、コーヒーとホットドッグ、そしてフルーツの入ったヨーグルトのセットをふるまってくださるという。

「ひとつください」
「はーい、いらっしゃい。そこ座ってて〜」

ベンチに座って待ってると鳥の声。運ばれてくるまでのわずか1分ほどの間に、3種類のちょうちょが目の前を横切っていった。白いのんと、黄色いのんと、黒くて青い模様のんと。めちゃくちゃ優雅。ディズニーかと思った。

「おまたせ〜」

「200円です」
「えっ、200円でいいんですか?」
「うん。もし飲み物だけもっと欲しかったら、+50円ね」

あまりに安くて聞き返してしまった。

「ほんとに? ほんとに200円でいいんですか?」
「うん。もっとくれるんなら、おばちゃんのポケットに入れといてくれる?笑」

ごみから作るホットドックとメタン君

コーヒーをすすり、ホットドッグをひとかじり。おいしい。カレー味の野菜炒め、黄身がほろほろのゆで卵。ケチャップとマスタードの比率もばっちり。……と、ここまではよくある、普通のホットドッグの話。「すごくおいしいですー!」と伝えるとおばさんが一言。

「よかったわ。それ、ごみで作ってるのよ」

んん?! ごみで?!!!

驚いていると、隣に座っていたおじさんが、立ち上がって教えてくれた。
「生ごみを処理して出るメタンガスで調理してるんよ。ゆで卵やコーヒーのお湯も。ほら、これ『メタン君』ゆうねん」

流しのようなものとでっかいコンテナが、何本かのチューブで繋がれている機械。側面に「生ごみ資源化装置 メタン君」と書かれている。

「それから野菜も。季節的にちゃうときもあるけども、普段はここから生まれた液肥で育った野菜を使ってるねんで。これ、みんないつでも来て、持って帰れるねん」

流しの部分を「メタン君」の頭とするならば、おしり側には「液肥」と書かれたタンクが2つ。

要は、このまちのみなさんのご家庭から出たごみを分解して資源化し、このホットドッグが作られている、ということらしい。それはすごい、素晴らしい循環。それからおじさんは、メタン君の使い方を丁寧に解説してくださった。おじさんもすごい。

「お詳しいんですね! もしかしてメタン君を作った方ですか?」
「いやいや! 違うよ。ただの通りすがり。作った人も後で来るから、いろいろ聞いたらええわ。でも、このまちの人やったら、だいたいみんな説明できるんちゃうかなあ」

へえー。これが特別な取り組みではなく、通りすがりのおじさんが詳しく説明してくれるくらい、このまちの文化として根付いているのが一番すごいな。 もっといろいろ知りたくて、コーヒーのおかわりをお願いした。なみなみ注いでくれた。うれしい。おじさんが、「ここの『コーヒー1杯』は、『コーヒーいっぱい』やねん」と言っていた。

パトロールのおじさん、女子大学生、親子連れまで!

2杯目のコーヒーを飲んでいると、カフェにはいろんな人達が集まり始めた。

まちの防犯パトロールで、巡回をし終えたおじさん。
「お、今日はホットドッグか」
「パトロールお疲れさん」
「ひとつちょうだい」
「はいはい、待ってね」

後ろには、大学生の女の子。
「私もひとつください」
「はーい!」
「あと、今公園の活用をテーマに卒論書いてて……写真いいですか?」
「どうぞどうぞ。何でも聞いて。写真はアプリで可愛くしといてな」

近くに住むおばあさん。
「朝は孫と食べちゃったのよ。コーヒーだけいただける?」
「まー素敵なお召し物。1杯50円です〜」
「ホットドッグは、テイクアウトもできるのかしら」
「できますできます。包みますね。家でちょっと温めたらおいしいから」

本当に緑道を通るために歩いていた人も。
「あら、めずらし! 来てくれたん?」
「散歩や散歩。向こうから歩いてたら、200円!って手出されて捕まったわ。通行料とるんかい、ゆうて」
「あはは! 今日、いつものカフェの日なんよ、食べてく?」
「お、ほなもらうわ」

それから、下の公園で遊んでいた子ども達が上がって来て、食べていたり。「午後からの仕事の前に」というフリーランスのお姉さんが訪れたり。最後は調理していたおばさん達も混じって、一緒に食べた。

「メタン君はうちらの息子みたいなもん」

このホットドッグを作るために使われている「メタン君」のこと、そして、この場所自体のことも気になる私は、その場にいたみなさんに、さらにお話を聞いてみた。

「まず、メタン君の仕組みはとてもシンプルで、私達生き物の体と全く一緒。ごはん(生ごみ)を食べて、胃の中(機械)で消化して、うんちやおしっこ(液肥)になる。で、それらを消化するときに発酵が進んでおなら(メタンガス)が出るわけなんです」

なるほどなるほど。めちゃくちゃわかりやすいな。教えてくれたのは、メタン君を作ったお兄さん。

そこに、「あっ。でもね、メタン君、こないだ風邪ひいたのよ」とおばさん。「そうそう。ちょっと調子悪くなってお通じ悪くなってたね」とお姉さんも乗っかる。

えっえっ、何? どういうこと?(笑)

「メタン君が消化できないものが入っちゃうと、壊れたり詰まってしまうことがあって。僕たちも修理やメンテナンスに来ますけど、みんなで看て、みんなで仕組みを知っていくというか」

「そうそう。みんなで『ちょっと、変なもの食べたんじゃないの〜?』とか言いながら、いろいろ自分達でも調べるのよ。うちらの息子みたいなもんよね」

「おうちにコンポスト……も、もちろんいいんだけど、置けるご家庭が限られていたり、人によっては管理が大変だったり。でも、こうやって地域の中にひとつあることで、『ここに通う』が出てくる。通うことで付き合いが生まれる」

「付き合いが生まれたら、メタン君の調子もみんなの調子もわかるしね、困ったときに助け合えるんよ」

いいなあ。「メタン君」と呼ばれる理由も納得。まちの一員として、萩の台に住んで、仲間たちに愛されているんだな。

メタン君が住む「こみすて」の話

メタン君が住むこの場所は、萩の台住宅地自治会の集会所と、その横の緑道を活用した「こみすて」という活動拠点。メタン君がやってきてからというものの、自治会内はもちろん、自治会に属さないまちの人たちのつながりも深まったらしい。

「ここでいろいろ作業してたら、ベンチを作って置いてくれるおじさんがいたり、近所の子ども達が一緒に看板を描いてくれたりしてね」

聞けば、「こみすて こどもスタッフ」として、自発的に名刺を配りはじめた子ども達もいたらしい。おもしろいな、最高だな。

ベンチができて、ちょっとした台ができると、近所の農家さんからの野菜直売ブースになったり。そこでコーヒーをふるまう人が出てきたり。そのときの写真を見せていただいた。なるほど、この延長線上に「縁道cafe」が生まれてるのかな。

もうひとつ見せてもらった、ある日の写真。まちの人が手作りしたドラム缶テーブルで宿題中の子ども達。建物内には図書コーナーもあるらしい。下には公園があるし、宿題が終わったらすぐ遊べるね。なんかもう、めちゃくちゃ健やかな場所。

昔、お風呂に入るといえば銭湯だったり、歯医者さんがまちにひとつしかなかったりする頃、それらの利用時間や待ち時間が、まちの人々の調子を伺う機能を担っていたらしい。けれど今は、だいたいのおうちにお風呂があるし、日本の歯医者さんの数はコンビニより多いらしい。ご近所付き合いが昔より減った現代に、萩の台には、みんながふらっと通える「こみすて」がある。しかも、動かすのもまちの人たち。ものすごくいいな、と思った。

「ごみを出しに行く」や「道を通る」という日常でおこなう動作の中に、「ちょっとコーヒーを飲んでいける」「一息つきながら話せる」がある。無理なく、自然にコミュニケーションが生まれる要素がある。そして、「テイクアウトもできる」「利用しなくてもよい」という選択肢もある。それぞれが関わりの具合を選べる。これも、すごく大事な要素だよな。

「ごみ」という言葉がなくなる日まで

ベンチに戻ると、
「そうだ、そのバッグ。台湾のでしょ? 私も持ってる、エコバックにしてる」とおばさん。
「台湾いいですよね。お土産にもらった台湾茶、箱が可愛くて物入れにしてます」とお姉さん。
「そういや、こないだお茶の出し殻すりつぶしてホットケーキに混ぜたら美味しかったわ」
「えー!やってみます!」

私が持ってた台湾の網バッグから、そんな話が広がった。自然と交わされたエコロジーな話題に、自分の日々を振り返る。お茶かあ。自分はまだまだ、ペットボトルに頼ってしまう生活。もうちょっと水筒を使おうかな、と思った。お茶っ葉のホットケーキも、すごくおいしそう。作ってみよう。

いろんな人の、いろんな話。会話に入らず、聞くだけでも面白い。もうちょっとここにいたいなあ、そう思って「あの、ホットドッグ余ってますか……?」と聞いてみた。図々しくも、もうひとセット注文してしまった。

そんなみなさんのお話で、一番印象に残っている言葉。

「ごみっていうのは、実は人間が生み出した概念で。僕は、環境のことを仕事にしているから余計に思うんですけども、いつか『ごみ』っていう言葉が存在しなくなるのが理想です。ほんとは、全部『資源』だなって思っていて」

「ごみを捨てる『ごみすて』ではなくて、ごみを資源に、人との交流に変えていくコミュニティステーション。だから、『こみすて』なのよね」

結局、3杯もいただいたコーヒーを飲み終わる頃には、すっかりごみのイメージが変わっていた。ホットドッグにつられて遊びに来て、こんなにいろんなお話ができると思っていなかった。「ごみ」という言葉を思い浮かべるとき、今までなら「捨てる」という言葉も一緒に浮かんでいたけれど、萩の台の人たちやメタン君に会ってからというものの、日頃もごみを捨てる前に、「何かに使えないかな?」と立ち止まるようになった。

ごみから作られた、おいしいホットドッグ。
私のごみの概念を変えた、すごいホットドッグ。

いつだったか、小学生から「落ち葉はごみ? ごみじゃない?」と聞かれて、長話をしたことがある。振り返れば、ごみの概念の話に近い内容だったなあ。ここ、萩の台の「こみすて」に集まる子どもたちと仲良くなれたら、いつかそういう話もしてみたい。

萩の台の縁道カフェ、
\ぜひみんなも遊びに行ってみてください/
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※しまだあやさんが書いた他の「まちのえき(複合型コミュニティづくり)」の記事はこちら
クラスメイトは1歳から73歳まで。教科書と屋根のない教室「みんな集まれ!ワクワク農園」
なんでもなおすおじさんと、リビングがある公園
ご近所さんが、先生と生徒になれる場所

【ライター情報】
しまだあや
作家・エッセイスト。1987年大阪生まれ、奈良在住。寝室以外の94%を地元の10~20代に開放するという暮らし方をしている。雑誌やWebなどでの執筆を中心に、企画、MCなど。代表エッセイに、note「今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く」「7日後に死ぬカニ」他。
Twitter https://twitter.com/c_chan1110
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2022.01.06 UP

いいサイクルはじめよう、いこまではじめよう

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