クラスメイトは1歳から73歳まで。教科書と屋根のない教室「みんな集まれ!ワクワク農園」
生駒市は、地域の人が歩いて集える自治会の集会所や公園などの地域拠点を活用し、新しい地域のつながりをつくる「複合型コミュニティ(まちのえき)」づくりを進めています。いったいどんな活動やつながりが生まれているのでしょうか。エッセイストのしまだあやさんが、北小平尾を訪れました。
「はーい!みなさん、集合してくださーい」
マイクを持った「先生」が声をかける。
ササッと駆け寄る人。とぼとぼ歩いてくる人。走り回る人もいるけれど、「こらーっ!」なんて声は聞こえない。60人ほどが、その「教室」に集まっている。
ただ、「教室」と言っても、そこには教科書も屋根もないし、黒板もノートもない。広い広い、農園があるだけ。しかも、クラスメイトの年齢は、下は1歳、上は73歳。大人も子どもも、みんなごちゃまぜ。
そんな教室で、私は一日だけ「生徒」になった。
子どもの頃に体験しそびれた、「はじめて」をたくさん学んだ楽しい一日。
そんな日のことを、書き残します。
【朝礼】まるで学校みたい、収穫祭の朝
奈良県 生駒市、小平尾町。ここは、北小平尾自治会が運営する「ワクワク農園」というところ。町内外、誰でもが訪れられる、広い広い市民農園。
いろんな野菜や花たちが豊かに育てられ、手作りの机と椅子があったり。ドラム缶でできたBBQコンロやピザ窯があったり。近くには公園もあり、開けた空には生駒山が望める。
農園の見学や収穫体験ができたり、朝市が開かれたり。育った野菜を使ったBBQや、木や草花を使ったDIYのワークショップなど、季節ごとのイベントが開かれたり。
そんな「ワクワク農園」で、「今度さつまいも収穫祭をするよ」とのことで、ふらっと遊びに行くことに。芋掘り、久しぶりだなあ。小学校の頃、学校行事でやったなあ。すっかり大人になっちゃったけど、うまく楽しめるかな。汚れても良い格好に軍手を持ち、少しそわそわしながら、農園へと向かった。
「はーい!みなさん集合〜!説明しまーす」
農園の入口で、マイクを持ったおじさんが呼びかける。
すると、小走りで駆け寄るお兄さん。ぽてぽてと歩いてくる女の子。そのまま立ち話を続けるおばさま方や、隅っこで叫びながら走り回る男の子たちも。
「さつまいも収穫祭」ということで、ただでさえ小学生時代を思い出してたのに、「みなさん集合〜!」という言葉と、それに対する反応に個性が出る感じ、なんだかほんとに学校みたい。
【1時間目】さつまいも以外も出てくる、さつまいもの収穫
「はい、説明は以上です。では、頑張ってくださいね〜」
早速さつまいもの収穫がスタート。大人も子どもも、みんな畝と畝の間にしゃがみこむ。私もしゃがみ込み、土を掻き分ける。
「とれたーーーー!」
収穫一番乗りは、小さな子どもだった。えっ、しかもでかっ!でかくない?
「おねえちゃん見て、ぼくもとれたよ」
「おお〜すごいやん、見せて見せて」
……えっ、いや、それじゃがいもじゃない?(笑)
面白いな、混じってんのかな。そして私も掘り当てるが……
またまたじゃがいも(笑)まあ、じゃがいもも好きだからいっか。
「あっちにいっぱいあるよ〜」
「こっちもとれたよー!」
そんな感じで、さつまいもがたくさん……とじゃがいもが少し、採れました。(ちなみにじゃがいもは、前の収穫祭で掘り切れなかったものが少し、土の中に残ってたらしい。)
【2時間目】里芋掘りで「破壊神」登場?
よし、意外と早く終わったな。今夜、さつまいもで何作ろっかな。……と思っていたら。
「はい、次はこちらです。里芋を掘りますよ〜〜」
「えっ???」
さつまいも収穫祭、掘るのは「さつまいも」だけじゃなかったのだ。
「里芋ははじめて掘るなあ〜」と思いながらやっていると、今度は少しかき分けるだけで、芋が土から顔を出す。……が、この里芋たち、なかなか土から離れない。掘っても掘っても、大きな里芋からぽこぽこと、小さな里芋が連なっている。根っこもいっぱい伸びていて、その1本1本が、しっかりと土を掴んでいる。
じんわり汗ばんできて、腕まくりをする人達も。いい運動になるなあ、ちょっと体育の気持ち。その隣では、同じく苦戦する小学生らしき女の子たちが。
「ぜんっぜん動かないよ〜!」
「一緒に引っ張ろうよ!」
「そうしよ!せーの!!」
びくともしない。
「ねえ、ハカイシン呼ぼうよ!」
「そうやな、ハカイシン呼ぼう!」
ハカイシン?(笑)
「りょうたー!りょうたー!お願い、手伝ってー!!」
「呼んだ?」
紹介します。彼が北小平尾の「破壊神」こと「りょうた」君。
彼の手にかかれば、強者の里芋もご覧の通りなのだ。(チョップはただただ痛そうやけど)
そんな破壊神のおかげで、里芋もたくさん採れました。
【3時間目】落花生はどうして「落花生」なの?
「はーい、次は落花生でーす!移動しますよ〜!」
落花生まで収穫できるんだ……もはや「芋」じゃないな(笑)
でもすごくうれしい。スーパーで売ってるのって、カリカリのばっかりだもんな。私、生の落花生茹でて、塩まぶしたのん、大好きなんよなあ。
そしてここでも「破壊神りょうた」が大活躍。女の子3人がかりでもなかなか千切れない落花生を、パワーで掴み、コツをも掴み、次々と引っこ抜いていきます。すごいぞりょうた!
今回も破壊神のおかげで、落花生がたくさん採れました。
と、ここで「先生」がみんなにクイズ。
「落花生が、なんで『落花生』っていう名前なのか知ってる人?」
「はいはいはい!」
勢いよく手を挙げる子どもたち。
「はい、どうぞ」
「ラッカセーって何ですか!」
「今とってるやつやん!!笑」
「あー、ピーナッツのことか」
私も手を挙げて発言する。
「落ちる花って書くんでしたっけ?」
「そうそう。なんででしょう?」
「うーん。……わかりません!!!笑」
この感じも学校みたい。懐かしい。
「答えはね、花が落ちて実が生まれるから『落花生』。落花生は花がしぼんだ後、するするーっとめしべが伸びて落ちて来て、土の中に潜る。で、そこからこの実ができるんです。」
へえー!知らなかった……!と関心していると、子どもたちはすでに別の興味へ。
「あ!カナヘビや!」
「え!どこどこ!」
「ほらここ、あっ、にげちゃう!」
【4時間目】採れた野菜でお昼ごはんづくり
たっぷり収穫したら、次はお昼ごはん。採れた野菜をみんなで調理して食べるらしい。
私は芋煮とピザ係。まずは里芋剥きのお手伝いへ。
いつもピーラー頼りの私。恥ずかしながら、包丁で里芋を剥くのははじめて。先輩たちの手つきを真似ようとするけれど、なかなか難しい。
「毎日やれば、あなたもうまくなるわよ」
そのあとはピザづくり。これなら得意かも。こうやってにんじんの葉っぱを散らして……
「あら、上に散らすと綺麗ね!今度は私に教えてちょうだい」
できあがったピザは、ドラム缶でつくったピザ窯にセットして約15分……
「わーー!大成功!!」
「めっちゃおいしそう!いただきまーす!」
【5時間目】マルシェで「おじいちゃんと孫」体験
昼食と同時に、テントの下ではマルシェが賑やかにオープン。農園の野菜の販売や、それらを使ったお菓子やお惣菜が振る舞われた。
こちらはさつまいものコロッケ。絶対おいしいやつだ……!
「すみません、1……いや、2パックください!」
「はーい、ありがとー!」
隣には、同じくさつまいもを使ったシフォンケーキ。
これも絶対おいしいやつ……!!
と、ここで、
任務を終えた「破壊神りょうた」が再登場。
「じいちゃん何か買って」
「はいはい〜」
絵に描いたような「おじいちゃんと孫」のワンシーンに興奮していると、りょうた君のおじいちゃんが声をかけてくれた。
「あんた、見ない顔やな」
「あ、奈良市からお邪魔してます」
「そうかそうか。いっぱい採って食ったか?」
「はい、お孫さんのおかげで!りょうた君、ずっと大活躍でしたよ」
「りょうたが?」
「はい。すごく力があって、みんなに頼られてましたよ〜!」
「へえ、そうなんか。りょうた、おまえ頑張っとったんか?」
「えーと、これと、これと、あとこれも」
りょうた君、全然聞いてない(笑)しかもりょうた君、めっちゃくちゃいっぱいシフォンケーキ買おうとしてる。さては、おじいちゃんの財布も破壊する気だな。
「私、『おじいちゃん何か買って』っていうの、はじめて生で聞きました。いいですね〜」
「あんた、じいちゃんに買うてもらわんかったんか?」
「んー、そうですねえ。あんまり機会なかったかも!」
実は、私のおじいちゃんは、父が小学生の頃に他界している。だからちょっと、おじいちゃんに甘えるって羨ましい。すると。
「りょうた、こちらのねえちゃんにも何個か選んで」
「えっ?」
「これと、あとこれと……何味がいい?」
「え!!笑 いいですいいです、そんな!」
「ええよ、せっかく来てくれてるんやし。りょうたとも遊んでくれて、孫同然や。じいちゃんが買うたる」
「えええ〜〜〜!!!」
「じゃあ、ひとつだけ……」
「もうひとつくらいいっとき」
「……!……じ、じゃあこれを」
「もうひとつ」
「いやもうそんな!(笑)十分です、十分うれしいです!」
「じいちゃん、じゃあ俺がもう一個買うてええ?」
「おまえはもうあかん」
はじめてだ。生まれてはじめて、おじいちゃんにおやつを買ってもらってしまった。
農園で採れたさつまいもとほうれん草のシフォンケーキ。うれしい。すごくうれしい。
【6時間目】気分は転校生。子どもたちとの座談会
落ち着いたところで、一緒に収穫をした子どもたちとおしゃべりをした。
「いや〜、今日は破壊神が大活躍でしたね」
「あはは、りょうた褒められてる〜」
「みんなは、お互いのこと知ってるんや?」
「うん、同じ学校やもん」
「そっか。学校でもこのメンバーで遊んでるん?」
「うーん、ちょっと違う!」
「こことここは同じクラスで遊ぶけど、◯◯ちゃんは違うクラスで」
「りょうたの弟は1年生やで」
「で、こことここは、双子やねんけど、」
ちょっ、ちょっと待って。お姉さん、混乱してきました。(笑)
「えっと、とりあえず、メンバーが違うわけやな!」
「うん!あと遊び方も違う」
「へー!どんな風に?」
「学校で遊ぶんも好きやけど、こんなずっと喋ったり走ったりしない」
「土もあんまり触ったりしないよね」
「あと、ここは違う学校の子とか、幼稚園の子とか、中学生の人も会える」
なるほどなるほど、いいね。いろんな人と出会うのはいいことだ。
「そういえば、りょうた君は、学校でも『破壊神』なん?」
「ん〜、破壊はしてない」
「あはは(笑)まあ確かに、学校には破壊していいものはあんまりないかもね。じゃあ、ここだと破壊力が活かせていいね!」
聞けば、この農園でりょうた君の力強さを見る機会に触れ、学校でも話題が増えたり、彼のキャラクターの魅力も拡がっていった、とのこと。そうだよなあ、コミュニティが変わると、いつもと違う側面が見れたりするもんなあ。
と、ここで、私がこの場所に対して感じたことを、子どもたちに話してみた。
「なんか私、今日、久しぶりに学校来た気分やねん。新しい友達もいっぱいできたし、転校生みたいな気持ち」
「学校?」
「うん。野菜のこといっぱい教えてもらうの理科の授業みたいやったし、料理したんは家庭科みたいやった」
「たしかに〜!」
「それやったら図工もあるよ!わたし看板つくったもん。入口に『みのり』ってあったの見た?あれわたしが描いてん」
「わたしもつくったよ! 『ふれあい』の看板!」
「他は他は?」
「んー、マルシェで買い物するのは、算数になるかもね」
「いっぱい体動かすから、体育にもなるよ!」
理科、家庭科、図工、体育。こうしてめいっぱい遊んで、いろんな職業の大人ともたくさん話して。きっと気づかないうちに、社会や国語の実践にもなってるんだろうなあ。
【終礼】引っ越してきた子どもたちにとっても、好きなまちになるように
「どう? 今日は楽しめた?」
収穫祭もお開きに近づく頃、そう話しかけてくれたのは、この「ワクワク農園」をつくり、運営しているひとり、村田さん。今日一日、はじめて来た私のことを、ずっと気にかけてくれていた。
「はい!ものすごく楽しかったです!」
「それは良かった!」
「いろんなことを、子どもからも大人のみなさんからも学べました」
「みんな素敵な人達やろ 」
「本当に。子どもの頃にしそびれた体験を、今日はたくさんできた気がします」
「実は僕もな、ずっとこういう体験、できてへんかってん」
「と言うと……?」
「今は定年退職して、こうやって農園やったり、まちのことしてるけども、それまでは毎日パソコンの前に座ってたよ。IT関係の仕事でね」
びっくりした。てっきり、昔から農業や、まちづくりの活動をされているのかと思っていたら。
「いや、ぜーんぜん。畑仕事なんて、1回もしたことなかったよ。でも、ここに集まってきてくれる人達の中には、農家さんもいるし、学校の先生もいるし。いろんなこと、学ばせてもらってる」
「ドラム缶のピザ窯も、ここに鉄鋼ができる仲間がおって、一緒に考えて作ったり」
「あれ、めっちゃいいなーって思ってました!」
「ベンチも看板も、みんなで手作りしてな」
「うんうん。子どもたち、『わたしが描いたんだよー』って嬉しそうに教えてくれましたよ」
「そうかあ。それはこちらも嬉しいなあ」
村田さんは、少し間を置いてから、話し始めた。
「僕の子どもたちはね、もうとっくに就職して離れとるけど、上の子も下の子も、2回ずつ転校させたんよな。僕が転勤族やったから。そのときは、仕事仕事であんまり気が回らんかったけど、学校でせっかくできた友達と離れたり、慣れへんまちに行ったりで、辛い思いもさせたやろうなあ、って思っててなあ」
「ここ生駒は、外から引っ越してくる家族が多いまち。子どもたちも、外からたくさんやってくる。……そういう中で、同じまちの人とつながる場所やったり、『ここの暮らしは楽しいな』『このまちええな』って思える時間を作ることって、ものすごく大切やねん」
「ここは空が広いし、生駒山も見えるし、土も豊かでしょ。そこでいろんな世代のみんなが集まって、何かを育てたりつくったり。そういう場所を作るのが夢やったんよな。これまでの50年間は、ずーっと機械に囲まれてた。だから今度は自然に囲まれた場所で、こんなんしたかったんやろうな」
「今、次の代に向けた準備をしはじめてる。次へ次へと、どんどん継いでいきたいねん」
「……じゃあ、今日遊んだ子どもたちが、いつか担うかもしれませんね!」
「そうやなあ。ああ、そうなったらほんまにうれしいなあ。でも、全く新しい人が継いでもいい。昔からおる人も新しい人も、いろんな人が入り混じって、このまちで楽しく暮らしてほしいなと思う」
・・・
生駒市、北小平尾の「ワクワク農園」。
私が体験したのはたった一日、ほんの一側面。でもこの農園は私にとって、教科書と屋根のない、広い広い教室に感じた。黒板もノートもないけれど、ここにはいろいろ学び合う風景が溢れているなあ、と思った。
国語、算数、理科、社会。図工に家庭科、それから体育……大人も子どももごっちゃになって、いつでも何歳でも、どのまちからでも通っていい学校。誰もが生徒に、あるいは先生にもなれる学校。
今日は、子どもの頃に体験しそびれた「はじめて」を、青空の下の教室でたくさん学んだ一日だった。新しくできたクラスメイトに会いに、またふらっと、遊びにいこうかなと思う。
【おまけの後日談】
収穫祭の次の週末、早速会いに行くことに。なんと、一緒に収穫した子どもたちのおうちにお邪魔させてもらって、家庭科の続き、ホットケーキ。収穫したさつまいものスイートポテトも食べたよ。すごくおいしかった。また遊ぼうね!
北小平尾の「みんな集まれ!ワクワク農園」
\ぜひみんなも遊びに行ってみてください/
野菜の植え付けや収穫体験、BBQ、木や草花を使ったDIY、防災訓練などをおこなっています。朝市は、毎週日曜日(第2週目のみ土曜日)に開催中。「参加したい!」という方はもちろん「ちょっと見学だけ」も大歓迎。お気軽にお問い合わせください。
副会長兼執行役 村田 耕一さん
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※しまだあやさんが書いた他の「まちのえき(複合型コミュニティづくり)」の記事はこちら
ごみから作られたホットドッグでごみの概念が変わった話
なんでもなおすおじさんと、リビングがある公園
ご近所さんが、先生と生徒になれる場所
【ライター情報】
しまだあや
作家・エッセイスト。1987年大阪生まれ、奈良在住。寝室以外の94%を地元の10~20代に開放するという暮らし方をしている。雑誌やWebなどでの執筆を中心に、企画、MCなど。代表エッセイに、note「今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く」「7日後に死ぬカニ」他。
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2022.03.15 UP