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まちづくりは、しない。生駒台がつくる「かけはし」の話

生駒市は、地域の人が歩いて集える自治会の集会所や公園などの地域拠点を活用し、新しい地域のつながりをつくる「複合型コミュニティ(まちのえき)」づくりを進めています。いったいどんな活動やつながりが生まれているのでしょうか。エッセイストのしまだあやさんが、生駒台を訪れました。

バイバイするとき大泣きされちゃう自治会館

「まちづくり」という言葉がある。大切な言葉だけど、最近「使い方によっては、ちょっと違和感がある」という声をちらほら聞く。海外には「まちづくり」という言葉自体が存在しない国もあるらしい。

どういうことだろうと思っていたら、ひとつのこたえがここ、生駒台の「まちのえき」にありました。

お邪魔したのはちょうどイベントの日。キッチンカーが来ていたり、バザーやワークショップをしていたり。

中では、まちの人が寄贈したおもちゃで遊ぶ小さな子ども達。親御さんたちもゆっくり過ごせるようになってるみたい。

こちらのご兄弟、ここにあるガソリンスタンドの模型のおもちゃが大のお気に入りだそうで。「まちのえき」を運営する生駒台自治会の方が、彼らのことを教えてくれました。

「あの子達いつも、バイバイするとき大泣きしてくれるんよ。おもちゃが理由だけど、泣かれる自治会ってのも、なかなかないと思わない?(笑)ここを気に入ってくれて嬉しい」

思い出話付きのバザー

次はバザーへ。机に宝物がズラリ。レジに行こうとすると「こういうのはもうちょい待ったら安くなるで」と、新しい友達に教えてもらいました。勉強になります。

あ、懐かしい。カセットテープだ。今の小学生、分かるかなあ、聞いてみよ。

「これ、知ってる?」
「はじめて見た。字とか間違ったときに消すやつ?」
「あはは、修正テープね!(笑)確かに部品、似てるかも」

答えを伝えると、「テープから音楽!? 絶対うそやあ〜」とあまり信じてもらえませんでした。

奥には、戦利品の見せ合いっこで盛り上がるお姉さん方。品物にまつわるエピソードトークに花咲く人達も。思い出話付きのバザー、いいな。

私も混ぜてもらお。

「この手編みの腕カバー、可愛い! 萌え袖用の穴まで空いてる」
「それは犬用の服よ」

挨拶10秒、コーヒー10分、卓球で10分

お次は卓球コーナー。イケてるパーカーの少年に勝負を挑みます。が。

完敗だった。少年、卓球部やった。ちなみに、初心者歓迎の「卓球教室」もやってるそうです。

とここで、先程バザーでお喋りした方がこんな話を教えてくれました。

「先日、ふらっと来たおじいさんに、コーヒー出して『卓球してみない?』って声かけたの。そしたら『できひん、はじめてや』って。だから『私もはじめてや』って。じゃあ一緒にしてみよかと10分ほど打ち合って。よく見る人やけど、喋ったことはなかったの。嬉しかったわ」

「挨拶で10秒。中で一緒にコーヒー飲んで10分。卓球もしたらプラス10分。少しずつ会話が増えてくでしょ。私がここに引っ越してきたとき、そういう関わりから、私はまちに馴染めたからさ」

間にいるから、できること

そういやここの自治会の役員さん、女性が多い気がする。私が育ったまちの自治会は、おじさんがほとんどだったけど、ここは若い人もたくさん。ちょうどおなかが空いたので、キッチンカーのご飯を食べながら、お話をふってみる。

「そうね、8割が女性で平均年齢も若めやね。でも若い女性だからというよりは、間にいるからこそできること何かな、って話してる」

「上の世代と下の世代の間。日頃仕事で会社にいる人と、地域にいる人の間。 秩序や文化を変えたくない人、変えていかなきゃという人。どっちの気持ちもすごくよくわかるの」

すごいなあ、右見て左見て、まちづくり。

「ん〜、まちづくりはしてないかも。どっちかっていうと『かけはし』って感じかな?」

お、気になるキーワード。

「例えば、今日のバザーは『買うチーム』が企画して、キッチンカーは『食べるチーム』。ワークショップは『遊ぶチーム』で、情報発信は『広報チーム』」

「私がいる『食べるチーム』は、食を通じたかけはし。今日は子どもがうれしい駄菓子屋さんも呼びつつ、ビールとワインも絶対必要だったの。あ、“私が” じゃないよ(笑)。お酒好きな大人が世代を超えて、乾杯してるとこ見れたらな〜って」

大人だって遊びが大切、地域で見守る環境づくり

「遊ぶチーム」は、地域で子どもを見守る環境を作りながら、日々お母さんやお父さんを頑張る人達にも、遊びの時間を届けてるんだって。そんな流れで、ポーセラーツというお皿への絵付け教室を開くのがこちら、谷村さん。

「はじめてのものづくりは、年齢関係なく同じスタートラインに立てるでしょ。こないだ『もうすぐ施設で暮らすおばあちゃんにプレゼントする』っていう中学生もいて。やってて良かったわ」

「みんなが自宅でも気軽に作れるものがいいかな」とも考えたけれど、ここに集うことに意味があると信じ、あえて、専門の知識や道具が必要なポーセラーツを選び、資格を取って、教室をはじめたんだそうで。

「実は私、家族を5人介護し終えたとこでね。ここには同じように、介護が大変な人も暮らしてる。気晴らしに来てもいいし。作りながらふと愚痴をこぼしてくれてもいいし。そんな場所にしていきたいの」

やってみたいことを、暮らすまちで試せる場所

ここで気づいたことが。ここのみなさんのお話、「こんなことがしたい」が必ずついてる。たとえ思い出話でも、「今度あれやってみない?」という未来の話に変わっていく。

広報チームとして、映像作りや情報発信を担当する村井さんも、「こんなことしたい」を語ってくださった。

「僕、前までは会社に出突っ張りだったけど、コロナで在宅になって、まちにいる時間が増えて、ここに顔出すようになったの。それではじめて知ってんけど、ここの裏って、公園と池で。調べてみたら、僕の親父が昔、管理に携わってたみたいで」

「で、ここからは僕の妄想やねんけど。この池にはサギが来る、チョウもトンボもいっぱい来る。生物の先生も近くに住んでる。だから、ここに住む生物の暮らしを守りながら、子ども達と自然教室やミニキャンプできひんかなって」

「自治会活動は仕事じゃない。でも僕は仕事にも繋がってる。ここって実験がいっぱいできるのよ。やってみたいことの一歩手前を、住んでるまちで試せる。だから、教育が好きな人や面白いことが好きなクリエイターが、暮らしたくなる場所にもしてみたい」

まちづくりというより、かけはしづくり

最後は、この場所に旗を立てた一人、自治会長の向さんに、この先のお話を聞いてみた。向さんは「みんなが同じことを思ってるかはわかんないけど」と添えて、教えてくださった。

「これをね、イベントで終わらせたらあかんなって思ってる。特別な日だけじゃなくて、日常的にここに来れる仕組みを作る。すごい難しいことやけどね。だってぶっちゃけちゃうと、私らが何を頑張って企画しても、都会の百貨店には勝てないわけよ(笑)」

「なのでね、暮らしのそばにある『まちのえき』だからこそできることを。まずは立ち寄ってもらって。間にいる私達が、子どもの声にも大人の声にも、耳を傾けて。やりたいこと、ちょっと相談してみよかなってときに、駆け込んでもらえる場所にしたい」

最初に書いた「まちづくり」という言葉の話。全てをやさしく包める言葉であるがゆえの、主体や目的の曖昧さに、使い方の難しさを感じる今日この頃だった。でも、この日会ったみなさんの姿で、ひとつのこたえがしみ込んだ。

「まちのえきで、まちづくりをしたい訳じゃない。生駒台の人達の『まちでこんなんできたらええなあ』一つひとつを、どうやったら実現できるか一緒に考えて、同じ気持ちの人と取り組んで。だから、まちづくりというか、かけはしづくりなんです」

まちは、人に寄り添う中で、つくられていく。
生駒台の「まちのえき」には、その姿がいろんなかたちになって、朗らかに集っていました。

おまけ


期待を裏切らない、ガソスタ大好き君。普段はお兄ちゃんも同じくらい泣くそうですが、この日はなんと、この真顔。今日、まちのえきで、少し大人になったみたい?

※しまだあやさんが書いた他の「複合型コミュニティ(まちのえき)」づくりの記事はこちら
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【ライター情報】
しまだあや
作家・エッセイスト。1987年大阪生まれ、奈良に移住して7年。家の94%を地元の10〜20代に開放するという暮らし方をしている。雑誌やWebなどでの執筆を中心に、企画、MCなど。

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2024.02.07 UP

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