おしゃべりも材料の1つ

ヒロミメシは、どのように始まったんですか？

わたし、食べるのが大好きなんです。でも、子どもが生まれてしばらくは、行ける店が限られて。幼稚園のママ友と「おいしくて、満足できるボリュームで、周りに気兼ねなく食事を楽しみたいね」と話すうち、自宅でランチ会を開くようになりました。

今日は、一緒にランチ会を始めたみんなが集まってくれたんです。「この料理、どうやってつくるの？」と聞かれたことが、教室の始まりでした。友だちが、気の知れた友だちを誘うようになり、顔が見える関係の中でじわじわと輪が広がり、気づくと「ヒロミメシ」と呼ばれていたんです。

いつもどんな雰囲気ですか？

集まって最初の30分は、おしゃべりしてます。それからみんなで5、6品料理して、ランチ会。それからまたおしゃべり再開です（笑）。気づいたら子どもたちが帰ってくる時間、なんて日もあります。

おしゃべりの時間が多い？

そうですね。美味しいご飯をつくるための料理教室なんですけど、一番の楽しみは、来てくれた人同士が打ち解けて、人目を気にせず話せることかなあ。おしゃべりしているうちに、子育ての困りごとも話し合ったりね。

調味料を、目分量で測る姿が新鮮でした。

バレました？参加した人からこんな話を聞いたんです。「とある料理教室に通ってみたら、小さじ1/2の塩でも、スプーンやヘラできっちり計量。『わたし、家での料理ちゃんとしてないんだ』と自分を責めてしまって」。目分量OKの料理教室があってもいいかなと思いました。

ヒロミメシの原風景

宏美さんは、どこで料理を教わったのですか？

料理の専門学校出身ではないし、有名な飲食店で働いた経験もありません。履歴書に書けるような経歴はないんです。

わたしの原点は、家庭かなあ。両親が共働きだったので、寿司屋の娘だったおばあちゃんが、小学生のわたしに料理のイロハを教えてくれたんですね。そして、親戚が家に集まる週末は、わたしもお母さんやおばあちゃんと一緒にキッチンに立って、料理を手伝って、どーんと大皿運んで。きれいに平らげたお皿が返ってくる快感に、小学生ながらハマりまして（笑）。

20年後の今も、みんなが話している姿をカウンター越しに眺めるのが大好きなんです。

子どもの頃の経験が、今につながるんですね。

子どもの頃は、まちのあちこちに家があるような感覚でしたね。小学生のときは、汗だくになるまで遊んで「お茶ください〜」と同級生の家に行ったり。高校生になって、ちょっと親とギクシャクしてしまった友だちから「今日、宏美んとこ夕食行っていい？」と連絡が来たり。振り返ってみると、いつも「食」がありました。

今は、自身がお母さんになりました。

ご飯もおやつも、できるだけ自然素材をつかっています。息子の同級生たちの間で、おやつに塩もみキュウリが流行っているんですよ。スナック菓子を食べることが多いでしょう？最初はびっくりしてたけど、ハマったみたい。最近は、同級生がきゅうり片手に遊びに来るんですよ。「おばあちゃんからもらってきた。これ、もんでくれる？」って。ちょっと昭和チックでしょ。

料理で家族にいい循環を

スナップエンドウも、盛り付け次第で印象が変わるんですね。

家の食卓に料理が並んだとき、家族が「あっ」と驚いてくれたらいいな。メニューは手早くつくれて、食材は生駒の八百屋さんやスーパーで揃うものがほとんど。教室の帰りに買いものをして、その日の夕食に出してほしいんです。

その日学んだレシピが、今夜の食卓に並ぶメニューになるんですね。

毎日の食事って、大変ですよね。家族一人一人に好き嫌いやその日の気分があって、「何つくったらいいの」とわからなくなる。それで、包丁を握ることに苦手意識を持つお母さんもいます。

たとえば、春菊が苦手な子どもって多いので「おじゃこと春菊のチヂミ」をつくった日がありました。お母さんが夕食に出したら、子どもがもぐもぐ食べたみたいで。

お母さんは料理に張り合いが出るし、子どもも「ぼく、春菊食べれるんや」と小さな成功が、自信につながる。食を通していい循環が生まれたら。

まさにグッドサイクルですね。最後に、料理を通して届けたいことは？

家族って「なまもの」だと思うんです。とても仲良しの時期もあれば、子どもが思春期迎えたり、親は親で仕事が大変だったり、すれ違うことだってあります。うまく言葉で気持ちを伝えられない日も、食卓に並ぶ料理が家族の心を通わせてくれたらいいな、すごく。

（2019.9.13）